満ち足りない月





――――…



「―――という絵本のお話をエルさんに聞かせて頂いたりしたんです」

レイルは長い語りを終えると、ふう、と一息ついた。


「ふん、いらん話ばかり語り継がれるな」


道がない屋敷へは歩きで行く事しか出来い為、その道中がウルベは毎回とても面倒に思っている。

小さい足では距離も長い。


黒猫になれば早い話だが、隣には人間の少年がいる。

そういうわけにもいかなかった。


というわけで歩きながらウルベはふっと鼻で笑うと、横にいるレイルを見ようと顔を上げた。


「で、お前もあの娘をシンシアに似ていると思ったのか」


そう言ってにやりと笑うウルベに、レイルはくすっと笑って「ええ」と答えた。

「お嬢様を呼び捨てで呼ぶ辺りが」


するとウルベは不機嫌そうに前を見ると言った。

「とうとう人間の小娘にまでとはな。まったく生意気な奴だ」


レイルはそんなウルベを見ながら、くすっと笑みをもらした。


「素敵な方でしたよ」