「よし、私は途中だった掃除に戻るとするわ」
セシルは意気込んで、袖をめくると、ホールを歩いていく。
ラルウィルはそんな彼女の後ろ姿を穏やかな表情で見つめた。
そしてふと、気がついたように目を見開き、ズボンのポケットへと手を運ぶ。
「忘れ物を返しそびれたな」
そう言うとラルウィルはポケットに入っていた黒いレースの小さなグローブを取り出した。
「あっ」
今度は廊下の突き当たりから、セシルの突拍子のない声が聞こえてきた。
「廊下の件、ってじゃああの猫は……」
セシルは今朝、黒猫が走ったその廊下を見つめながら、ふうと息を吐くと口を開いた。
「まったく、文句の一つでも言ったらよかったわ」



