でも、それでも私は逃げたかった。
もうこれ以上鎖に縛られるだけなんて嫌。
私は逃げ切ってみせるわ!
拳はいつの間にか強く握っていた。
謎の男、ラルウィルはただ黙って廊下を歩いている。
それにしても、この人、見た目はほんと綺麗よね。
セシルはちらっと見つめながらその後ろ姿の男と自分が今まで見てきた男性達と比べた。
人間離れした美しさ。
男はまさにその言葉にぴったりだった。
絵から出てきたような立ち姿。
後ろ姿だけでもその気品に溢れた表情が伺える。
それなのに、この屋敷ときたら…
セシルは呆れたようにちらっと横目で辺りを見た。
蜘蛛の巣は絶えずどこにもあるし、絵の額縁にはうっすらホコリがたまっているのが伺える。
前を歩くラルウィルには何だか似合わないその屋敷の不潔感。
いや、しかしこの気味の悪い雰囲気も何だかんだ言って、この謎の男にはよく合っているのかもしれない。



