「そしたらもう行くとするわ」
リュエフはそう言うと窓の外へと向き直った。
「そろそろ来るやろうしな、あの人も。ウルベ婆さんに宜しく言うといてな」
振り返り際にニッと彼らしい笑みを浮かべると、リュエフは外の真っ暗闇が広がる森へと、勢いよく飛んだ。
その途端、月明かりが彼を照らすとその青年は見る見る内に姿を変え、大きな狼の姿になったかと思うと暗い森の中に落ちていった。
―――…
狼は凄い速さで森を走りながら考えていた。
ちょっと可哀相な事をしたなあ。
けど、どうせあいつの事やろうから自分から出ていけなんて言いそうもないし……
まあ出ていかん言われてちょっと安心した俺も俺やけどなあ。
昔話なんてうっかりしてしもうたし…
そうして森を早々と抜けると、青年の姿へと姿を変えた。
これだけの距離を走ったというのに汗すら浮かべていない。
すると彼はポケットから一枚の紙切れを取り出した。
切り取られた新聞記事だ。
大きな見出しの中央にある写真には控え目に笑う一人の女性が載せられている。
"大貴族の一人娘、行方不明"
「大したお嬢さんやな、彼女も」



