満ち足りない月





すらっとした長身。


漆黒の黒服に身を包んだ青白い肌は目立つ。なんでこんなに白いのだろうか。病気みたいだ。



セシルは思った。


自分をじーっと見る目に気付いたのか男はニコッとはにかむとこちらを見つめた。



軽い男だなぁ。セシルはこういう男を今まで見てきて思った経験だった。


こういう男はあまり好きじゃない。


上辺だけで付き合うような奴は何より嫌いだ。



セシルは顔をしかめた。



「まあそう顔をくしゃくしゃにしないで。せっかくの綺麗な顔が台無しだな」

男はまたフッと微笑んだ。


あの軽い笑顔、なんか嘘っぽいわ…



「ねぇここは貴方の屋敷なの?」



先程の男の言葉は無視して、セシルは言った。



「まあね。ここは俺の屋敷だ。ところでお嬢さん」



「気安くお嬢さんなんて呼ばないでほしいわ。名前はエル」



エルなんて偽名だ。


とにかくこんな見るからに怪しい男に名前なんて教えられるわけがない。かと言ってお嬢さんなんて呼ばれ方、似合わないし…


セシルのそんな嘘に気付いていないのか、男はまたにっこりと微笑んだ。



「そうか、エル。俺の名前はラルウィル。ラルとでも呼んでくれ」



名前、言ってる…


いや、でも偽名かもしれないし。