満ち足りない月





「よし」

リュエフは口角を上げて、ニッと笑うと膝を曲げて思い切り飛んだ。


急角度で目の前の真上にあるバルコニーまでリュエフは空中を移動する。



トン、と音がしてバルコニーの手摺りに着地すると、中へと通じる透明な扉の向こうにいる奴と目が合った。


満月のようにまあるく目を見開いてこちらを見る少年に向かって、リュエフは得意げにニッと笑った。

そして呆気にとられているその少年に向かって、申し訳なさそうな表情を浮かべながら頭をかいた。

「その…ごめんな、花。気づかんかったんや」


しかし、すぐにハッとした。


しまった。"人"にこんな人間離れをした所を見せてしまった。

あいつ、誰かに言ったりするかな?


不安気に相手をそっと見ると、それは予想外の反応をしていた。


「お前!バンパイアなのか?」

素早くドアを開け、目の前にやってきた少年は嬉しそうにその答えを待っていた。