「逃げて逃げて逃げてるといつの間にかここにおったわ。何故か不思議と来るまでの経緯(いきさつ)はなんも覚えてなくてなあ。とにかく覚えとる記憶はこの屋敷を見た時からやなあ」
懐かしそうに遠くを見るリュエフは何だか少し老け込んで見えた。
この話は一体いつのことなのだろう。
若い男の身なりをしていても中身は相当な年月を過ごしてきた狼男。
それが今になって急にその実感がわき上がってきた気がした。
「不気味な屋敷やった。見つけたんが夜やったからかもしれんけどほんまお化け屋敷さながらやったわ。けど小さい俺は何でか怖くは感じんかったんや。きっと別の感情のが大きかったからやろなあ」
リュエフは紅茶をすすると丁寧にカップを置いた。
「とりあえず俺は野生の直感つーかなんつーかその屋敷に生き物がおる気配はないと思ったんや。そやからまあ勝手に少し身を隠すぐらいのつもりで屋敷に入ろうと思った」
私と同じ……
確かにセシルから見ても屋敷から人の気配は感じられなかった。
むしろ信じてはいないが生きていないもの、幽霊のようなものが住み着いているような、そんな馬鹿げたことさえ思った。



