満ち足りない月





「っ!?」


驚いたセシルはすばやく後ろを振り返り、反射的に身構えた。



「おっと。威勢がいいな」


「いつの間に?」



男は後ろに立っているようだ。

「まあまあ落ち着いて」



シュボッというマッチを刷る音がしたかと思うと後ろがぼうっと赤く光った。


赤い光に照らされ、男の顔が見れた。



綺麗な鼻筋、整えられた眉、柔らかそうな唇。アイスブルーの美しい瞳に赤いマッチの火が映し出される。


その美しさにセシルは思わず息を飲んだ。しかし何者かまだ分からない。



セシルの警戒はまだ解けなかった。



その男は手元に持っていた蝋燭(ろうそく)にマッチの火を灯すとマッチにある火をふぅと静かな息で吹き消した。


ろうそく三本に火をつけた事により、ホールの中央だけが明るい赤の光を灯った。



男の全体像が見える。