満ち足りない月





「でも、彼と一緒にいたい、そう思うんです」


セシルは言った。

まるで目を輝かせるかのように。

それまで表情が緩むことなかったリュエフが目尻を下げた。


「あんな吸血鬼のどこがいいんやら…」

ふう、と息を吐きながらリュエフは言った。


「私も分かりませんよ。でも私、あの人の時々見せる冷たい表情とか、もの淋しそうに見ている顔とか、全部、見てるのが苦手なんです。だから本当に時々見せる彼の“笑顔”が好きです。だから…」


「だから?」

リュエフはまた真剣な表情をこちらを見つめる。





「私が彼の笑顔を守りたいんです」







リュエフは目を丸くした。

初めてセシルを見た時よりももっと。


そしてぷっと笑いを漏らした。