満ち足りない月





そう語る彼の口から覗く歯は動物の牙のように尖っていた。


街の噂は本当だったんだわ…


セシルはいろんな人から耳にするヴァンパイアや狼男が現れた、という噂を思い出した。

そんな馬鹿馬鹿しいなんて思っていたのに今現在、自分の目の前に自分がいるはずがないと笑った種族がいる。


セシルは改めて自分が踏み込んだ世界について考えた。


そしてごくり、と唾を飲み込む。


「噂、っておいまさか街で“あの姿”になった事があるんじゃないだろうな?」

ラルウィルはじーっとリュエフを睨んだ。

するとリュエフはハハハッと笑い出した。


「そんなん当然やないか。仕事があるのにいちいち満月の夜に出んはずがないやろが」


「そんな気にしてたら仕事なんかやってけんで」と、リュエフは続けた。


な、なんて大ざっぱな…

セシルは苦笑した。


その横からラルウィルの大きなため息が聞こえてくる。


「はあ……。本当にお前って奴は」



「大丈夫やって。見られてもこの俺のスピードに目が追いついてける奴は人間にはおらん」

そう言ってウインクをするリュエフ。