満ち足りない月





「え、ああ」


本題を忘れていたように今気付いたとばかりにリュエフは言った。


「狼男、って知っとるか?」


ニッと笑ってこちらを見つめるリュエフ。

狼男…


またしても意外すぎる言葉にセシルは動揺を隠しきれなかった。

それにしてもここ数日、普通の人間ならば経験しないはずだろう大きな驚きが多いすぎる気がする。



この目の前にいる青年が“狼男”…


普通は信じろと言われて信じられる事ではないのだが、今のセシルにはそれが本当の事なのだという事が分かっている。


それでも人間の中にある理屈に大きく反したものがいるという事が信じられなかった。


そんな中、セシルは絞り出すように言葉を発した。


「狼男、っていうと街でもいろいろ噂は聞いた事があります。でも本当に……」


「本物やで」

ニカッと歯を見せながらリュエフは笑った。