満ち足りない月





「悪趣味…」


セシルは苦虫を噛んだかのようにそっと呟いた。


漆黒のコウモリだったはずだが今はその色ははげ、銀色の表面が見えてしまっている。


こんなに綺麗な屋敷なのになぜここにこんなものを置いたのだろう。



しかしセシルはあまり深くは考えず、扉をコンコンコンと三回ノックした。



―――返事はない。



「誰もいないのかしら?」



セシルは思い切って取っ手を握り、引いてみた。


キィィ…――



軋む音が響いた。なんだか不気味だ。


中も真っ暗なようで扉が半開きな今は何も見えない。



自分の心臓が大きく高鳴る音がセシルには聞こえた気がした。



でも…


このまま立ち止まっていても仕方がない。


しかも追っ手は今もセシルを探しているかもしれないのだ。



「ふぅ…」と大きく息を吐くと気持ちが少し落ち着いた気がした。ごくりと生つばを飲み込む。



再びキッと前を見据えると、月光に照らされ鈍い光を放っている取っ手を引いた。