満ち足りない月





「それでねそれでね、薔薇はほかに九本も咲いてたんだよ」


「そう……」

母はまたも無気力な声で返事を返した。

母さんは最近、これしか言わない。


ラルウィルは部屋を出る事にした。


せめて庭だけでも見せてあげられたら――

ラルウィルは唇を噛み締めた。




次の日の朝。
ラルウィルはいつもと違う事をした。

土で汚れた右手には赤い薔薇が握られている。


棘でちくちくするけれど、ラルウィルは母の部屋へと走った。

怒られてもいい。別の言葉が欲しい。

だから……

「母さん!今日はね――」



「……ねえ」

今まで窓を見ていた母はゆっくりとこちらに振り返った。


初めて「そう…」、以外の言葉を話してくれた!


ラルウィルは嬉しくなってベッドから身を乗り出した。


母はにっこり笑うと何年か前に見た、あの優しそうな微笑みをラルウィルに向けた。


「いつも話しかけてくれるけれど…坊やは誰?」