満ち足りない月





扉の前にある階段をゆっくりと上った。



カッカッカッというブーツと階段が擦れる音が静かな屋敷の周りで微かに響く。


そんな小さな音でさえ、今は怖い。



セシルは自らの背丈の二倍はあるだろう細長い扉の前に立った。


変わったデザイン…



その長い扉の上を見上げながらセシルは思った。


木の良さを存分に出した綺麗なブラウンの扉。


触ってみるとスーっと滑らかに指が滑る。


良い木だ。



ここの木とは全然違う。



セシルは今まで来た薄暗くて湿った森を思い出し、思った。



しかし扉の取っ手の上にはなんだか黒いものが飾ってある。



コウモリの黒いプレート。