満ち足りない月





セシルは顔を真っ赤にしながら「あ、有り難う…」と、そっぽを向いてぼそっと言った。


何でこの人はこんなキザな事が平気な顔して出来るのかしら。



「とにかく」

セシルはラルウィルの胸を押して離れた。

「水をたくさん含ませて拭くのは危険だと分かったわ。だから吹き直します」


セシルは転けないようによろよろとバケツの元へと歩いて行った。


恥をかいちゃった。

ラルウィルに背を向けている為、彼には分からないだろうが顔は紅潮したままだ。


セシルはバケツの前でしゃがむと水の中に雑巾を突っ込んだ。


「有り難う」


いつの間にか隣で声がした為、横を見るとラルウィルのほころばせた顔があった。

セシルは嬉しくなって、にっこりと笑った。