とにかく入ってみるだけの価値はありそうだ。
「…よし」
セシルは一度、息を大きく吐きながら目をつぶった。
そして恐る恐る一歩を進める。
するとなんだか吸い寄せられるかのようにどんどん屋敷へと歩いていった。
セシルはまず屋敷を囲っている黒い柵を見つめた。
尖った先まで美しく削られ、細やかな細工が施されている。柵は二メートルほどでセシルの背より高い。
薔薇の形を残したその柵は意外と鋭く尖っており、少し触れただけでも身を傷つけそうだ。
魔物よけなのだろうか。
要するに『綺麗な薔薇には棘がある』という事か。
この屋敷の主人、それとも"だった人"はなかなか面白い考え方をする。
隠された警告って事?
「いいわ、上等じゃない。受けて立つわよ」
セシルはそう言うと強い顔つきで薔薇の形を象った黒い門に手をかけた。



