そんな彼を見て、翼は一安心し、手当てをする手を休めることなく返した。
「教わったんだよ…沙耶に。」
『沙耶』という名前を出すと、颯太は気まずそうな顔をした。
「翼さ…やっぱり、まだ吹っ切れてない…よな?」
颯太の言葉に、翼は包帯を巻いていた手を止め、俯いた。
「わり…変なこときいた。」
颯太が、バツの悪そうな顔をして謝ると、翼は再び包帯を巻き始める。
「気にすんな。」
そう短く返し、翼は黙々と手当てをする。
颯太も、それ以上は何も言わなかった。
翼に対して、『沙耶』というワードを用いた会話は、もはや禁忌だ。
翼が自分から話す以外は、何もきいてはいけないような雰囲気を醸し出している。
翼の、他人に触れられたくない部分…
触れてはいけない…
それ程までに、翼の中での沙耶の存在は大きく、大切で、かけがえのないものだったのだ。


