「走る。」


「グルルー…!」



突然、ポツリと一言呟いた翼に、鬼が反応する。

四肢の筋肉をグッと縮め、今にも飛び掛かりそうな体制になった。


しかし、翼は気にも留めていないようだ。



「俺は走る。走って走りまくって生き残る!あいつの為に!」



そう言い放ち、翼はすっくと立ち上がる。

頭に響いていた頭痛も、霞む視界も、今は気にならない。







逃げるんじゃない!

走るんだ!


走って走って、鬼なんか振り切る程に強く走り抜いて…

なにがなんでも生き残る!






翼の瞳は、視界が霞んでいる筈なのに、キッパリと前を見据えて、強く光っている。


鬼は、翼の纏うオーラがガラリと変わったことを感じ取り、脚で地面を強く蹴り、翼に襲い掛かってきた。



が、翼の方が一枚上手だった。


集中し切っている翼は、鬼の息遣いや、感じ取った雰囲気から襲い掛かってくるという予測を、既に叩き出していたのだ。

翼は、最小限の動きで鬼の攻撃をかわし、襲い掛かってきた筈の鬼は勢い余って噴水に突っ込んでいった。

鬼の巨体のせいで、派手な水しぶきが上がり、翼の髪を濡らした。