いつものコースを逆走していると、なんともいえぬ居心地の悪さを感じる。
実際、左右が逆転しているだけなのだが、平生の世界ではないように見えてしまう。
そんな、異世界のような廊下で鬼に追われ、殺されそうになっているなど、頭が直ぐに理解してくれる筈がない。
混乱する脳を押さえ込むように、翼は、ただ走ることだけに集中し、体を動かす電気信号だけを手足に伝えた。
「ハッハッハッ―っ!」
全く酸素を取り込もうとしてくれない肺が、浅い呼吸を繰り返させる。
鬼のスピードが緩まることはない。
後ろから聞こえる、ガスッガスッ!という足音は、むしろ速くなっているような気さえする。
チラリと見遣った腕時計は、まだ【5:30】を表示している。
クソッ―…
どうすれば、あと30分を乗り切れるんだ…
翼は、頭の中で舌打ちをし、階段を一段とばしで駆け降り、中庭へと出た。


