《カンッ―》




早く離れなければという焦りから、大きな音が出てしまった。

翼は、自身が出した音に驚き、心臓がグッと押さえ込まれたような感覚に陥る。

そして、ゆっくりと階下にいる鬼に目を向けた。



どうか、聞こえていないでくれ…



「…―っ!」



翼の願いは、目にした、鬼が階段を上ってくる映像により、打ち砕かれた。

映像を認識し、危険を感じ取るより速く、翼の脚は、ほぼ反射的に走り出していた。









やばい。

やばい、やばい、やばい!



目が合った。

あの、獲物を狙う爛々と光る眼と。


確実に追われる!









そう考えながら走る翼の後ろからは、ガツン、ガツン!と鬼が階段を駆け上がっていると思われる音が聞こえる。

その音を耳が拾い、鼓膜を揺らす度に、恐怖が身体を揺さ振り、息が上手く出来なくなる。


ただでさえ、最悪のコンディションで迎えたのだ。

この朝練を生き残ることは、困難極まりない。


翼にとって、もはやこれは練習などではない。

本番なのだ。