走っても走っても続く廊下は、気を抜けば地獄へと繋がる横道に迷い込んでしまうのではないか、という錯覚に陥る程 薄暗い。
しかし、止まることは最大のタブー。
特に、今の牧野 翼にとっては、その行為が直接死へと繋がる。
「ハァハァ…!」
どれくらい走り続けたのだろうか、と腕に着けた黒い腕時計を忌々しそうにチラリと見る。
“5:55”
その表示に、牧野 翼の表情に光が射す。
もう少しだ。
あと5分。
走れ。
腕を振れ。
脚を動かせ。
後ろに感じていた殺気から、徐々に距離が開くのがわかる。
スイッチが入った。
これならいける。
牧野 翼の表情は、上がり調子の自分の脚に安堵した。