この場の雰囲気を愉しんでいる人物は、ただ一人。

黒いジャージのその男、鬼城は満足気にグラウンドに散らばる生徒達を眺めていた。


鬼に対する恐怖だけでなく、人間に対する恐怖や不安が渦を巻き、自分以外のもの全てに怯えている。

眼球を震わせ、些細な事にも神経を尖らせ、必死に自分を保っている。

そんな彼らを見れば見る程、腹の底からふつふつとエネルギーが湧き上がるようだった。


深く息を吸い、この空気を堪能した鬼城が、ゆっくりと地を這う低い声で、




「集合!」



とだけ言えば、恐怖にまみれた生徒達が静かに集まった。

自分が植え付け、育て上げた恐怖で心を満たしたかわいい生徒達だ。




あぁ、なんとも堪らない。



悦に入った表情を隠すこともせずに、生徒達をヒタリと舐め回すように眺め、ふと牧野 翼に目が留まった。

いつもなら、今ここで掴みかかってやろうとでも言わんばかりの殺気を放つ彼が、自分では無く、部員達に注意が向けられ、不安を隠し切れずにいた。



あいつも、もう少しだな。




更に機嫌を良くした鬼城は、話も早々に、部員達へ校舎に入るよう命令すると、また何処かへと消えて行った。