逃げ道が出来た。
前方に鬼は居るものの、完全に木崎に狙いを定めており、翼達には目もくれない。
おまけに木崎は体力的にはもちろん精神的にも余裕があるらしく、ぐんぐんスピードを上げると鬼を引き連れて廊下の遥か先まであっという間に進んでしまった。
「皆川!あと少しだ!」
もう少し。
ほんの数分を逃げ切れば、助かる。
その気持ちが二人の脚を軽くさせた。
後方の鬼とも僅かに差が開く。
そして、その瞬間は遂に訪れた。
キーンコーンカーンコーン……
待ち詫びたチャイムがぎこち無く鳴り響き、辺りの空気が明るくなる。
どこかに身を潜めていた朝日が窓から差し込み、廊下を所々に照らし影を消していった。
「ハッハッ……ハァー……。」
鬼の気配が無くなり、平和な世界が戻ったのを確認すると、徐々にスピードを落として呼吸を整えた。
完全に止まると、ようやく口を開いた。
「助かった……。皆川、助かったぞ!」
「うん。」
「生き残ったぞ、俺たち。」
次の返事は無かった。
ただ、響子は顔を手で覆い、静かにぽろぽろと涙を流していた。