前方に立ち塞がっていた鬼が声の方へと振り返る。
「ほらほら〜!鬼さんこちら!」
そう言って再び手を叩く人物が廊下の先にぼんやりと見えた。
「木崎!」
目を凝らし、見えた相手に翼は思わず叫んだ。
「よっ。ピンチだね〜翼。」
表情までは読み取れないが、声音から木崎のにやにやしている顔が浮かぶ。
鬼は木崎に狙いを変えたのか、翼達に完全に背を向けて木崎の方へとにじり寄って行く。
「おっと〜。俺もピンチだね〜。」
呑気に間延びした声でそう言うが、木崎はゆっくりと鬼の方に歩み寄っていく。
「木崎くん!逃げて!鬼はリレーのメンバーを狙ってるの!」
響子が喚起するが、木崎はそれでもペースを崩さない。
「なるほどね〜。それで俺が呼ばれたのか〜。」
鬼の手がギリギリ届かない範囲まで来ると、木崎はやはりにやにやと笑いながらこちらを見ていた。
「ほれほれ〜。俺を捕まえたいんだろ〜?」
グァルルー……
喉を鳴らし、飛びかかるチャンスを狙っているかの様に、鬼は一歩また一歩と木崎に近づく。
後ろの二体もじりじりと距離を詰めてくるので、翼達も一歩二歩と進んで行く。
そんな緊迫した状態でも、木崎はピンチを愉しんでいる。
「俺のこと捕まえられっかな〜?」
グァッ……グァルルー……!
鬼が次第に興奮し、昂っているのが分かる。
その限界を感じた時、木崎は遂に勝負を仕掛けた。
「よ〜い……どん!」
木崎が大きく一つ手を打つと、鬼が弾かれた様に突っ込んで行った。
が、木崎は解っていたようで、もう前方に向き直り、全力で走り出していた。
動き出した空気が後ろの鬼も刺激したらしい。
静かだった二体も地を蹴り走り出した。
「走れ!」