「しゃがめ!」
そう叫び、響子の腕を肩に引きながら膝を折れば、僅か頭上数センチの所を鈍く光る爪が掠めた。
「きゃっ!」
響子が短い悲鳴を上げるが、横を見ればなんとか避けきれたようだった。
胸を撫で下ろすのも束の間。
鬼は待ってはくれない。
「立て!」
次の攻撃に備えて翼は素早く立ち上がり、響子に手を伸ばす。
はしりと繋いだ手は小刻みに震えている。
「はやく!」
焦りから語気が強まる。
「ま、待って……!脚が……っ!」
手だけではない。
脚も口も、全身を恐怖心でわなわなと震わせて、力が全く入っていない。
「グァァア!」
鬼が繋いだ手を目掛けて逆の腕を振り下ろす。
「っくそ!」
いち早く気づいた翼は、手を離し響子の体を反対側に軽く押す。
刹那、2人の間を鈍い銀色が割り入り、廊下にヒビを入れた。
体制を立て直す間もなく、鬼はもう一度腕を振り上げる。
狙いはやはり響子だ。
「皆川!逃げろ!」
叫ぶが、彼女の耳には届かない。
見開かれた目は鬼のその爪に釘付けになり、蛇に睨まれた蛙の如くピクリとも動く事が出来ない。


