そうしてまた、しばらく距離を保ったまま走る。






「ハッハッ……っ!ハァハッ……ハッ!」






再び響子の呼吸が乱れてきた。

限界か。

あと少しの筈なのに。




眉を顰め目を凝らした先に人影が見えた。






「皆川!2人目だ!もう少しだ!」






「……ハッハッ……っ!ハァハッ!」






頷かない。


口が大きく開き、息を吸うのも吐くのも全て口でしてしまっている。

僅かにスピードが落ちてきた。






「ほら!しっかりしろ!もう少しだから!」






半歩だった差が一歩二歩と広がり、翼は慌てて響子の手首を掴んだ。

このまま鬼の居る暗がりに吸い込まれてしまうのではないかという不安が過ぎった。






「もう少しだ!あと一人で木崎だ!」






そう叫ぶが響子はゆるゆると首を振った。







「……ハッハッ!ごめ……ごめ、なさ……ハッ!もう……っ!」






そう言い終わるが早いか、上がらなくなった脚が地面に絡め取られガクンと膝を折った。

掴んでいた腕にずしりと体重が掛かる。






「皆川!」






諦めてなるものかと腕を引くが、一度立ち上がったものの再びカクリと膝を折る。

よく見れば、左脚のふくらはぎが痙攣している。





「くそ!俺は諦めないからな!」






彼女の腕を肩に回すと強引に進む。





「……っ牧野くん。」





翼の必死な姿を見て、響子は涙をなんとか堪え必死に動く右脚で廊下を蹴る。


しかし、そんなスピードで逃げられる筈がない。





生温い、ねっとりと纏わりつく様な湿った息がすぐ後ろから這い伝わった。






グァッ……グァルルー!!





遂に追い詰めたとでも言いたげに喉を鳴らし、鬼は右腕を大きく振り上げた。