「ハッハァ!……牧野くん?ハッハッ……牧野くん!」





呼び掛けるが、返事はない。

もう階段を昇っていってしまったようだ。



独り取り残された不安と後ろにに迫る恐怖の存在から、また涙が出そうになる。

喉の奥がツンと詰まり、上手く息が出来ない。





「……っふ、ハァハッ!ハッハッ!……っぅぐ。」






鬼との距離が少しずつ縮まっているのが分かる。


息遣いが近づき、背中にぶつけられる殺気がピリピリと増していく。







早く!


階段まであと少し!


そこまで行けば、牧野くんがいる!


きっと助かる!





信じてくれって言ってくれたあの人を裏切りたくない。

こんな私に生きろと励まし続けてくれた彼の優しさに報いたい。



私も彼を信じたい!






「ハッハッ!ハッハッ!……っ!ハァハッ!」






お願い!


動いて!私の脚でしょ?




あと少し!

あと少しだから!






「グァ……グァルル。」





背中をゾクリと冷たい物が伝った。

何かを感じ取った響子は、初めて後ろを振り返った。



お決まりの文句を言った鬼は遂にその腕を振り下ろす。




「キャァァア!!」





走る事など忘れて、響子は両腕で頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。




もう何も考えられない。


動けない。


死ぬんだと思った瞬間であった。






ヒーローがその腕を力強く引いた。