それから、この地獄の日々が始まったのだ。







鬼城は逃げる以外のルールを何一つ教えてはくれなかったが、この数週間でわかった事はいくつかある。





一つは腕時計だ。

練習初日、全員に黒い腕時計が配られ、着けるようにという指示だけを受けた。

自分のタイムと終了時刻の確認の為かと思って着けた者が殆どだが、練習中、スタミナ切れで走るの止めた奴の時計が吹き飛んだらしいという噂が流れ始め、何人かが外そうとしたが外れず、そこで真意に気づいた。

自分達は常に監視され、何か踏み外そうものなら直ちに裁かれるのだと。







次に校舎だ。


逃げる場所は特に指定されておらず、学校の敷地内ならばどこを走っても良いらしい。

が、その学校自体が変なのだ。

一般生徒はおろか、教師ともすれ違わない。

あの歪な鐘が鳴ると、どこか異次元のような、しんと静まり返ったほの暗い校舎へと変わるのだ。





そして、捕まったらどうなるか。


これは、まだ謎の部分も多いが、はっきりしているのは、居なくなった者は居なかったことになる、という事だ。

陸上部員を除いてだが、教師や友達はもちろん、本人の家族からでさえ忘れられ、その存在が無かった事になっているのだ。





その他には、鬼ごっこが始まると鬼城は何処かへ行き、練習中は姿を見ないという事ぐらいだった。