「なんだったんだ……。」
暫し呆然と鬼の背中を眺める事しか出来なかったが、ハッとして投げ飛ばされた今井に駆け寄る。
「おい!大丈夫か?」
「……ってて。あぁ、なんとか。」
腰を頻りに摩ってはいるが、翼が手を伸ばすと今井はすっくと立ち上がった。
脚の震えも治まったようだ。
「走れるか?」
「あぁ。もう大丈夫だ。」
「無理させて悪いんだが、今井は急いで太田の所まで走ってこの状況を伝えて欲しい。」
そう話しながら、翼は頭をフルに回転させていた。
止まっていられる時間は短い。
手短に、だがベストな道を選ばなければならない。
「伝えたら太田は次の須高に伝言する。今井はまたこっち向きに走って鬼の後ろについてくれ。行って戻る形になるが、鬼と正面から鉢合わせるよりは良いと思う。」
「なるほど。じゃあ、太田も伝言したらまたこっちに戻ってくりゃいいんだな。」
「そうだ。」
腕時計を見遣ると赤いランプが点滅していた。
「時間がない。俺は、鬼を追う。頼んだぞ。」
翼は返事を待たずに踵を返すと、駆け出した。
「翼っ!」
しかし、直ぐに今井に呼ばれて再び彼の方をむく。
「ありがとな。見捨てないでくれて。ほんっとうにありがとう!……生き残れよ!」
そう言って親指を立てて口端を僅かに上げた。
返事を返すのはなんだかむず痒くて、翼は不器用に拳を作った片腕を軽く上げ、再び走り出した。


