辺りに充満する血の匂いに頭がクラクラする。

胃がキリキリと締めあげられ、今にも吐きそうだ。


しかし、立ち止まる訳にはいかない。

幸い鬼はこちらに気付いていないのか、高橋の体を嬲るのに夢中であった。





「今井!しっかりしろ!」




声をなるべく潜めて呼び掛ける。





「ど、どうしよう……脚に力が入らねぇよ……。」





震える声でやっと返すが、脚が動いてはくれない。






「ほら、腕回せ!行くぞ!」





翼は今井の腕を肩に担ぐと、腰を支えて立たせた。

なんとか歩き出し、変化のない腕時計に胸を撫で下ろすが、背後に迫る脅威から逃げる術がない。

鬼の注意がこちらへ向けば、即終了だ。





「……っくそ!」





思わず悪態をついてしまう。

何も良い案が浮かばない。

2人が助かる方法がない。





「翼っ……翼……死にたくねぇよ……。」





今井がうわ言のように繰り返す。





「死なせない。絶対に。」






「死にたくねぇ……死にたくねぇよ。頼む、置いてかないでくれ……!」





「落ち着け、今井。置いていったりしない!息を深く吸うんだ。そう。で、ゆっくり吐く。」






助かる根拠など無いが、努めて冷静に言えば今井は少しずつ落ち着きを取り戻し、歩くだけで精一杯だった脚に力が籠る。





しかし、希望が差したのは束の間。





高橋の身体を充分に堪能した鬼達は階段から廊下へと向かい、次の獲物を探し始めていた。