後ろを一度も振り返ること無く、彼は一目散に翼の元へと走って来た。
止まることは出来ないため、並んだところで翼は逆走のかたちをとり部員は少しスピードを緩めた。
「鬼は?」
急を要するであろう、手短に問うた。
「それが!あいつら、高橋を追いかけて階段をのぼっていったんだ!俺をムシして!」
やはり、だ。
どうやら予想した通りのことが起こっている。
「俺、ちゃんと鬼に近づいて!なのに、あいつら!」
「落ち着け。今井のせいじゃない。奴ら作戦を変えてきたんだ。」
「そんな!!どうすりゃいいんだよ!高橋が!!」
「とにかく、次の階段へ急ごう。高橋も逃げきれていたらそこから降りてくる筈だ。」
「でも、鬼もいるんじゃ……。」
「だろうな。けど、放っておいたら高橋は確実にやられる。見過ごせるかよ。」
今井は恐怖と罪悪感とで青ざめた顔を顰めた。
死にたくないという気持ちが恐怖に後押しされて膨らむ。
誰もが、翼のように立ち向かう勇気が持てるとは限らない。
正義を掲げられてもどうしても足が竦んでしまう。


