自分のスタート地点に立つ。
夏が近づき、この時間でもぼんやりとした朝日が窓から差し込んでいる。
翼は朧気な光を眺めながら鈍く思考を巡らせていた。
皆川に生き残って貰うためにはどうすればいいのか。
彼女の実力なら、普通の鬼ごっこであれば逃げ切る事が可能であろう。
しかし、この間のような、それこそ狩りをする様なプレーを取られれば確かではない。
答えは単純だ。
誰かが彼女を助ければ良い。
己を犠牲にすれば、少なくともその回の練習は生き残る事が出来るであろう。
でも、その次は?
その次の次は?
このいつまでも続く地獄に助かる道はあるのだろうか。
ただただ毎日を逃げ延びて、なんの進展もないままに日々を過ごしている。
何かを起こさなければ現状は変わらない。
覚悟を決めなければならないと思う。
そこで思考を止めると、翼は目の前の現実に集中した。
とにかく、今は走らなければ。
走って逃げ切らなければ話は始まらない。
歪な鐘がぎこちなく鳴り、周囲の輪郭があやふやになる。
先程までの何か神聖で尊いものの様な朝日はどこかへと身を潜め、不気味でひんやりとした空気が足首を掠めた。
一つ大きく息を吸うと、翼はゆっくりと走り出した。


