笛が鳴り、グラウンドで点々とストレッチをしていた部員達が一斉に集まる。

鬼城は、じっとりと舐め回すように彼等を見据え、今にも恐ろしい発言が飛び出してくる様な雰囲気であったが、何も言わない。





「揃ったな。では、朝練を始める。校舎に入れ。」





そうして、いつも通りの言葉を淡々と発すると、自分はもうさっさと何処かへ歩いて行ってしまった。





「え?終わり?ってか、鬼城の奴どこ行くんだよ。」




颯太が拍子抜けといった表情で、黒いジャージの背中を追っていた。

いつもなら、校舎に入っていく部員達の恐怖と不安の顔をしっかりと愉しんでいくのだが、今朝はむしろ顔も見たくないといった雰囲気である。

もしくは、何らかの作戦が始まっているのだろうか。



置いてけぼりの様に突き放された部員達は、少しの間グラウンドで鬼城の行動を監視していたが、腕時計が開始5分前を指している事に気づいた翼が声を掛ける。





「みんな、時間だ。行こう。」





「うおっ!まじだ!やべぇやべぇ。サンキュー翼!」





颯太が調子よくそう言うと、他の部員達も駆け足で校舎へと向かい始めた。