「牧野くんっ……。」
「大丈夫。大丈夫だ。」
縋るような声で名前を呼ばれ、翼は力強くだが出来る限り優しく応えた。
「全て上手くいってる。」
チラと横目で見遣ると、皆川は青い顔でこくこくと頷いていた。
後から足音が響く度にびくりと肩を揺らし、唇も僅かに震えている。
「俺は次の階段で別れるから、そしたら全力で颯太のとこまで走るんだ。大丈夫。皆川なら出来る。」
またこくこくと小さく頷く。
翼の言葉は聞こえてはいるようだが、走ることだけで精一杯という感じだ。
もうひとつ声を掛けたいところだが、階段の近くまで来てしまっている。
「頑張れよ。」
翼は皆川の背中に手を当ててそれだけを言うと、スピードを上げて距離をとる。
しかし、どうしても気に掛かり一度だけ振り返った。
皆川の顔は強ばってはいるが目はしっかりと前を見据えていた。
腕をしっかり振り、次へと進む力が感じ取れた。
翼は前へ向き直ると、階段を駆け上がっていった。


