前方から聞こえた声に心臓がビクリと一度飛び跳ねた。
落ち着け。
まだ、前を走る部員が逆走してくる気配はない。
すぐにでも引き返したくなる弱い気持ちを抑えて、同じスピードを保つ。
意識を集中させ、前から来るであろう部員を待ち構える。
微かな足音が聞こえてきた。
リズムは一定で落ち着いている。
目を凝らしてその時を待つ。
足音が次第に大きくなり、さらに他の……人間では無い足音も耳が拾った時であった。
前を走っていた部員が視界に映った。
部員とすれ違う寸前で翼も向きを変え、逆走の形をとる。
「状況は?」
並走しながら手短に聞く。
「俺が引き付け役だ。三体ともいる。」
「前方の走者は?」
「作戦通り。」
「了解。次の階段で別れよう。」
そこまで言うと、翼はスピードを落としてわざと鬼へと近づいていった。
部員は軽く片手を上げると、少しして階段へと逸れていく。
ガスッガスッガスッーと、廊下を引っ掻く様な足音が迫る。
鬼が十分に近づき、自分を認識し、ターゲットにしたであろう事を感じ取ると、翼は再びスピードを上げた。
今のところは作戦通りにいっている。
次の走者は皆川だ。
悲鳴は聞こえている筈。
こちらを警戒してくれているといいのだが……。


