話し合いが終わり、グラウンドから部室へと戻る途中、翼は響子がまだグラウンドの隅に残っている事に気づき、どうしたのだろうかと足を止めた。

部室へ入っていく部員達から距離を取り、最後の一人になるのを待っているかの様であった。

殆ど部室の方まで来ていた翼だったが、影った表情が妙に気になってしまい、グラウンドの方へと戻る。




「……皆川?」




近くまで行き声を掛けてみるが、少し俯いたまま応えはない。

先程の大演説が嘘のようだ。




「どうしたんだ?授業、遅れるぞ。」




「私……とんでもない事しちゃったのかも……。」




普段よりも更に自信なさげな、降り始めの雨音のようにぽつりぽつりと喋る。




「私……私っ!みんなを殺しちゃうかもしれない……!どうしよう……。取り返しのつかない事、しちゃった……!」





震える声は今にも溢れだしそうな涙を堪えて掠れていた。




「落ち着け、皆川。みんな、解ってる。解ってて賛成したんだ。皆川は悪くないよ。むしろ、凄いよ。みんなを纏めて、引っ張って、士気も高めて。俺は……俺には出来なかった。」





翼は素直にそう思っていた。

責任という重圧が怖くて、自分に自信が無くて、心の隅にあった自分さえ生き残ればという卑しい気持ちが邪魔をして出来なかった。

全ては己の弱さ故、一歩踏み出せなかった。





「人の為に動けるって、本当に優しい人間じゃないと出来ないと思う。だから、皆川はすごいよ。」





なるべく優しい声でそう宥めるが、響子はまだ下を向いたままだ。

どうすれば……と思案していると、一度固く唇を閉じてから響子は口を開いた。






「……違うの。誰かの為じゃないの……自分の為なの。」





そうして、遂に涙が零れて頬を伝った。