「もし、鬼に遭遇したら、コースは変えずに走るスピードを変える。前から現れたなら逆走する。そうすれば、必ず他の部員と合流する事が出来る。とにかく、一人で鬼を相手にしないようにするんだ。そうすれば、多少なりとも鬼を混乱させて動きを鈍くさせる事が出来るし、全力で走ってスタミナ切れになる前に他の部員に引き付けてもらうことも出来る。」





そこまで一気に話すと、翼は恐る恐る周りの反応を伺った。

咄嗟に考えた案で、しかも100%助かる作戦では無い。

不完全で、危険が伴う。

一歩間違えれば、朝練以上の犠牲者を出すことになるかも知れないのだ。





「ねぇ、それって囮になるってこと?そんなの、相手が裏切ったら終わりじゃない?」





女子部員の一人から鋭い質問が飛ぶ。

ここは、下手に誤魔化すよりも、正直に答えた方が良さそうだ。






「確かに。信頼関係があってこその作戦で、裏切られれば即終了だ。」




颯太を横目で見ると、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

翔の事を思い出しているに違いない。

翼の提案を信じて生き残りたいと思う反面、裏切られた時の絶望と恐怖を知っているからこその葛藤が垣間見えた。

しかし、それは承知の上での作戦だ。

最初から、実行するかしないかは他の部員達の判断に委ねようと考えていた。

さすがの翼でも、ここに居る全員の命を預かれる程の度量は無い。

ここまでたくさんの命を自分の采配で好きにして良い筈が無いと、責任を取れない恐怖から完全なリーダーになる事を拒んだ。




「だから、この作戦を実行するかどうかはみんなが決めてくれ。」





その一言を最後に、場は静まり返った。