嘘みたいだ。助かった。
鐘が鳴った。
鬼ごっこは終わりだ。
安堵し、固く瞑っていた目を開く。
鐘が鳴れば、歪な空間と共に鬼は消え去り、平和な校舎へと戻る。
恐怖など、そこにはもう無い筈であった。
が、しかし最悪の状況は予告無く、最悪を更新するものである。
「……な?!」
鬼はまだ、翼の目の前に陣取り爪を振り上げた状態で存在していた。
「フゥー!グゥゥゥーウァ!!ウゥゥ!」
鬼は今までに聞いた事の無い、何か葛藤しているような声を出して鼻息を荒くしていた。
しかし、校舎が徐々に輪郭をはっきりさせ、現実味を帯びてくると意を決したように、ヴァァァ!と雄叫びを上げ、再び爪を振り下ろしてきた。
くそっ!鐘は鳴ったのに!
翼はただ近付いてくる爪を見ることしか出来なかった。
今度こそ、駄目だと。
自分の命は狩られるのだと覚悟した。
鋭利な物で切り裂いた音がして、グラリと倒れる体。
倒れたのは……目の前の鬼の体。
「ウガァァァァ!!」
けたたましい叫び声を上げ、ドサリと身を倒す鬼からはどす黒い血がダラダラと流れ伝っていた。
一体、何が起きたんだ?
倒れた鬼越しに教室を見やると、廊下にいた筈のもう一体の鬼が近くに立っていた。
爪は赤い人間の血ではなく、鬼が流すのと同じ黒い液体で染まっている。
訳が分からない。
でも、助かったのか?
異常な事態に頭が混乱している間に、鬼たちは歪んだ空間と共に姿を消してしまった。
校舎は完全にいつもの平穏な空気へと戻っていた。


