「あ〜あ〜、地区予選終わったばっかなのにまた練習かよ。」




颯太のぼやきは毎度の事で、翼は特に気に留める事なくストレッチを続けた。





「一日くらいオフがあってもいいのによ〜。」





慣れているのはもちろん颯太も同じで、無反応でも構わずにいる。






「県大、すぐだろ。」




「まぁ、そうだけどさぁ〜。」




「せっかく予選通ったんだから。」





「わぁかってるって。ちょっと愚痴ってみただけだって〜。」





そう言い、のろのろとストレッチをする。





「颯太、今から練習だぞ。」





そうだというのにここまで気の抜けた颯太に、さすがの翼も単発ながらも言葉を投げつける。





「大丈夫だって。ここまで生きてこれてんだ。今日だってどうにかなるさ。」





「油断は禁物だ。」






練習前に雰囲気を乱したくはない。

翼は一応の念押しだけをすると、まだ笛は鳴っていないがグラウンドの真中へと歩いていった。




「へいへーい。」




なんとも気の抜けた返事が後ろから聞こえ、心配は更に膨れ上がったが颯太の性格からして今注意しても逆効果にしかならないだろう。





ただ、颯太に限らず慣れというものへの恐ろしさは以前から危惧していた。

少しずつではあるが、部員達から最初の頃の様な緊張感や恐怖心が薄れていっている事を感じていた。

さらに、先日の大会での好成績による自信からか、この異常な部活動をなんとなくいつもの光景として受け入れつつある者もいる。



その自信や傲りは必ずいつか足を引く。


そして、少しでも隙を見せた時、鬼城は必ず何かを仕掛けてくる。



それこそが一番の恐れであった。