学校の外での鬼城の振る舞いは、まるで別人だった。
他校の顧問に挨拶をし、自己紹介を軽く済ませてお互い健闘しましょうと、笑顔こそないがそんな一言さえ添えていた。
「おーい!全員注目ー!」
声音や口調も変わり、あの地を這うような低い声が嘘のように、少し間延びした穏やかなものになっていた。
部員達は戸惑いながらも、身体は素直に鬼城からの指示に従った。
「えー、本番では何が起こるかわからない。事故のないよう、アップは念入りにしておくように。他は特に言うことはないかな。じゃあ、アップ始めるぞー!」
本物の顧問の様に振る舞う鬼城に、部員の誰もがついていけていなかった。
いつもならば返事が無かった事に激怒し、何か仕掛けてきてもおかしくはない筈なのだが、鬼城は何も言わない。
「おいおい。アイツ、頭でも打ったのか?」
アップをしながら颯太が気持ち悪いものを見た、とでも言わんばかりに顔を歪めさせる。
「うへぇ。鳥肌止まんねぇよ。」
「バレないようにしてるんだろ。カメラも来てるからな。」
つまり、鬼城にとってあの練習は他人に知られてはいけない事。
知られては鬼城に不都合があるという事だ。
「ふ〜ん。今なら何やっても怒られねぇのかな?」
「帰ってからどうなるかは知らないけどな。」
颯太の好奇心をぴしゃりと払うと、翼は鬼城の事は一度頭から追い出し、試合へと集中すべく身体を温めていった。