会場はまだ地区予選というこもあって応援は少なく、地元の新聞社や注目選手を追いかける一部の大手メディアをまばらに見かける程度だった。
各校の選手達はトラックの周辺にサークルを作っては、それぞれにストレッチをしていたり、流していたりと様々だ。
「おー、やってるやってる。久々だなぁ、この感じ。」
「そうか?この前、春の選抜があっただろ。」
「まぁ、そうだけどよ。なんかさぁ……。」
確かに颯太の言わんとする事は、分からなくはない。
前回の大会は鬼城が就任する前。
その間の練習を、とてつもなく長く感じているのは颯太だけではない。
「平和だよなぁ……。俺たちとアイツら、同じ部活で同じ場所に立ってるっつうのに、なんかアイツらは別世界にいるみてぇだ……。」
調子を落としてぽつりと零した一言に、翼もトラックを見渡し他校の選手達へと目を向ける。
「俺らがなにしたっつぅんだよ……。」
声音こそなんでもない風に装っているが、目は真剣だった。
「……行くぞ。」
返す言葉が見つからず、翼は先を促すと足を早めた。