「そうだ!牧野くんも遠藤くんも覚えてるよね?明日!」
「明日?」
「地区予選だな。」
冷静に答えた翼に反して、颯太はしまった忘れていたと顔を顰めた。
「お、覚えてたさ!もちろん!!……今朝までは!」
じとりと横目で颯太を見遣るとたじたじと弁明するが、後の祭り。
「仕方ないだろ!今朝あんなことがあったんだからよ!」
「なにも言ってない。」
「いーや!目がもう!言ってる!」
そんな2人を響子は、まぁまぁと宥めて本題に入った。
「それで、その関係で明日の朝練は短縮の30分になるから。あっ。でも、集合はいつもと同じ時間ね?」
「わかった。ありがとな。」
「それと、これが一番大事な連絡事項。」
表情がグッと真剣になり、響子は二人を交互に見つめた。
その緊迫した雰囲気に、思わず押し黙る。
「地区予選を通過して、都大会。そこで優勝したら、褒美をやるって鬼城コーチから発表があったの。」
鬼城が褒美?
その一単語だけで、翼の脳内には様々な想像が飛び回った。
どう考えても今までの経験上、悪い方向にばかり傾くが、褒美というからにはこちら側に何らかのメリットがないと語弊がある。
罠か?
本当なら、なぜ急にそんな事を言い始めた?
「褒美って?」
颯太が当然の質問をした。
「わからない。それは優勝したら教えるって。」
「種目は?なんでもいいのか?」
翼も気になる事を矢継ぎ早に質問した。
「うん。とにかく優勝できたら、って。」
「各種目で何人も優勝者が出たら、その分褒美はアップするのか?」
「どうだろ?分かんないや。ただ、都大会で優勝したら褒美を与えるって。以上だって言って、質問も出来ないまま解散になったから……。」
「そうか。教えてくれてありがとな。」
「ううん。牧野くんの為だもん。牧野くんには本当に感謝してるから。私がここまで生き残れてるのは、牧野くんのお陰だよ。」
そう言って明るく笑うと、そろそろ部室に戻るねとその場を後にする響子を温かい気持ちで見送った。