暫く沈黙が続いた後、翼の弱々しい声がぽつりぽつりと話し始めた。




「……説得……しようとした。それで賭けをして……俺は負けたのに……生きたいと思っちまった……。それで……翔を突き飛ばして……っ…。」



こんなに力なく喋る翼を見るのは二度目だ。

颯太は、頭の片隅でこの地獄の部活動が始まったばかりの、あの時の事を思い出しながら話に耳を傾けていた。




「俺も…結局、翔と同じだったんだ……。最後は自分が一番大事だった……。」




そこで、ことりと話を止めて俯いた。

そんな翼を数秒見つめると、颯太は瞳の奥に小さな決意と闇を潜ませて静かに、だが力強く呟いた。




「それでも、生きろよ。」




俯いた翼の頭がぴくりと反応して僅かに揺れた。




「自分が一番大事?そんなの、そうに決まってんだろ?誰かの為に犠牲になって貫く正義は確かにすげぇが、俺はそんな格好付けヤローになって死ぬぐらいならヒーローになんかなれなくてもいい!俺は生き残りたい!なにがなんでもだ!お前もそうじゃないのかよ?!」




次第に声を荒げ、最後には叫ぶように問い掛けた颯太に、翼は顔を上げ目を見開いた。

普段、お調子者で何事にも適当な受け応えでその場をながす彼が、今は本心を曝け出しぶつかってきている。

そんな彼に、自分も本心で応えたいと強く思った。





「俺だって自分が死にそうな時に、友達も死にそうだったら自分を優先させる!人間ってそんなもんだろ?そうじゃねぇなんて言う奴はキレイゴトばっかのヒーロー気取りか、死を間近に感じたことのねぇヤツだ!翼!お前は生きてる!これからも生きる!そうだろ?!」




「……あぁ……あぁ!俺は生き残りたい!この先も!」




暗い井戸の底に陽の光が差したような感覚が胸を走った。