翼は考えた。
今現在、自分が置かれている状況。
翔の心理状態。
予測できうる限りの鬼の行動。
次の階段を昇れば、再びあの螺旋階段へ向かうコースになる。
降りれば、いつもとは違うコースを行くとこになるが、教室、渡り廊下、中庭と進む道の選択は複数できる。
そして、この選択の中で最も気にするべきは鬼ではない。翔の頭の中だ。
彼が何を考え、どういった心境から自分の道を選び、どんな行動を起こしてくるのか。
翔と同じ道を選べば、必ずまた突き飛ばされ鬼の餌にされるだろう。
そして、突き飛ばすとしたら落としやすい昇りの階段を選ぶ筈だ。
また、もしお互い違う選択をしたとしても、鬼は手負いの翼を追う確率が高い。
つまり、昇るという選択が翔にとって一番メリットが多いということになる。
翔の心が真に闇に染まり、それこそ鬼の心を持ってしまっているとすれば、彼は恐らく次の階段を昇るであろう。
だが、翼は信じたかった。
今まで共に頑張ってきた仲間だ。
脳裏には、この過酷な練習が始まる前の記憶が……お互いタイムを競い合い、純粋に走ることを楽しんでいた記憶が蘇る。
翔は本当はそんなことをする奴じゃないと信じたかった。
口だけだと。
同じ選択をしてしまっても、人の心は捨てきれずに、なんだかんだ情を掛けてくれるのではないかと甘い考えさえ過る。
ダメだ。考えを纏められない。
信じたい。
だが、不安だ。
死にたくない。
だが、仲間を信じなかった自分とこれから付き合うことになるのも嫌だ。
どうすれば……
考えが交錯する中、階段はもう目の前まで迫っていた。
答えなんてまだ出ていない。
それでも、選ばなければならない。
そして、翼は無意識に昇ることを選んだ。


