荒い息遣いが一瞬詰まったかのように聞こえた次の瞬間、鬼が一歩踏み込み、その右手が翼の顔目掛けて突き出される。
「…っ!」
校舎の壁に背中をこすりつけながらも、咄嗟に体をずらしかわす。
しかし、それだけで終えては追い込まれるばかりだ。
翼はしゃがんだ体制のまま手をつき、自身の右脚で、踏み出された鬼の軸足である左脚を払う。
「っぐ!」
予想はしていたが、それを遥かに上回る硬い鋼のような脚だ。
「こっ…の!」
歯を食いしばり、力込める。
ようやく鬼の脚が傾きだした。
そして、払われた左脚が浮き、鬼は完全に体制を崩した。
積み上げたツミキの塔が崩れるようにして、鬼の巨体が倒れていく。
この隙を逃す訳にはいかない。
翼は鬼の横を転がり抜ける。
これで、鬼と壁に挟まれた、まさに背水の陣ともいえる状況から脱する。
ここまでは順調であった。
しかし、鬼は常に予想を上回る力で、翼を追い込んでくる。
そう。
鬼はなんと、残った右脚で地を蹴り上げ、身体を半回転程させると、見事に体制を立て直したのだ。
地を這って届いた着地の振動に、背筋が震えた。


