翼の身体は重力に従い落ち、右肩から地面に叩きつけられた。

ドッと鈍い音と共に痛みが走る。

そして、その痛みさえも忘れさせる程の恐怖と向き合う。



地面を掻く鋭い爪と強靭な四肢。
荒い息遣いと喉を鳴らす不気味な唸り声にも似た音。



「よう。またお前かよ。」



口端を引き攣らせながらも笑った翼の背中には冷や汗が伝っていた。

鬼は翼を値踏みするかの様に、一定の距離を保ち右側へとゆっくり回り込んでくる。

それに合わせ、翼も左へと移動する。

円を描いて回りながらも、視線は互いに一瞬たりとも外さない。



「グッグァルル…!」



痺れを切らしたかのように一層喉を震わせると同時に、鬼が一歩距離を縮める。

合わせて下がろうとした翼の肩がぶつかる。

背後に忍び立つは校舎の壁。



―…こいつ。やはり知能も?



考える翼を余所に鬼はまた距離を縮め、僅かに2メートル程の距離を残して止まった。

これが奴の射程距離、という訳か。

翼はこの一旦停止が解けた時が、いよいよ自分が狩られる時だと理解していた。

しかし、その狩られる瞬間こそが現状況を脱出するチャンスでもあると考えていた。

そのチャンスを掴むべく、翼は鬼の一挙手一投足、どんな微細な動きをも見逃すまいと集中する。



そして、遂に鬼が動いた。