「そうだ。なぁ、ちょっと一緒に走ってみないか?」



今思い付いたといった様子で、さりげなく翔に持ち掛けてみた。

一瞬、翔の頬が僅かに引き攣ったように見えた。



「…俺と翼の2人でか?」



怪しまれたのだろうか?



「あぁ。ほら、この練習が始まる前のタイムでは、翔といい勝負だったし。」



内心慌てながらも冷静を保ち、理由の言葉を補強していく。



「競走とまでは言わない。自分がどれだけの速さなのか知りたいんだ。」



そこまで言うと、



「まぁ、別にいいけど。」



と、了解を得ることができた。

翼の背中には、嫌な汗が伝っていた。



「ありがとな。助かるよ。」



「いいって。」



そう言って微かに笑った翔に、翼は深く安堵する。

どうやら、多少なりとも信用を取り戻せたようだ。



「じゃ、どっからスタートする?」



「翼に合わせるよ。」



「なら、2-Aの教室前廊下からスタートだ。」



そう約束し、翼は部室を出て行った。

その頭では、翔をどう説得するかを考えていた。


だから、気が付かなかったのだ。

翔が、出て行く翼を恐ろしく冷めた瞳で見ていたことに…