あなたはお人好しよ、意外と。

そう言えば以前、奏音がそんなことを言っていたのを思い出す。

確かにな。




いや、お人好しじゃない。

女に優しいんだよ、俺。






「1回ぐらいなら、付き合ってやってもいーよ」






本当?と弾けるように振り向いた飛鳥。

こういう反応、新鮮だな。




俺が縦に首を振ると、飛鳥はヒールを一際高く鳴らして、俺に駆け寄った。






『お店ね、あっちの裏路地なの』


「ふーん。てか腕組まないで」


『あ、ごめんなさい。つい、癖で…』


「アフターとか何とか…いろいろあるらしーね」


『そう。お客さんはみんな、腕組むと喜ぶから』


「俺、纏わりつかれんの嫌いなんだよね」


『そうなんですね。神崎さんらしい』






俺の腕を無意識に掴んでいた彼女は、するすると腕を離して笑った。

神崎さんらしい、って。俺のなに知って言ってんの。

そう言ってやろうかと思ったけど、やめた。






『私、杏奈っていうんです』


「アンナ?あ、名前?」


『そう。飛鳥はもちろん源氏名』


「そっか」


『神崎さん、下の名前は?』


「教えない。」


『えー。私、本名教えたの初めてなのに』






俺が何か言う前に、彼女は店を指さしてあそこです、と声を弾ませた。

マイペースというか、なんというか。

俺は、自分のペースを崩されるのが嫌いだ。



だけど、彼女のペースに徐々に巻き込まれている自分に

ふと気がついて、些か、心がざわついたのを覚えた。