「可愛いかったなぁ・・・」
昼休みから一気に時間が経ち、放課後の下校時刻になった。
「誰が?」
教室の机に腰をかけ、向かい合って話す。
「棗さんが!」
俺と葵(アオイ)がこうして放課後に残って話すのは毎日。
それが俺らにとって当たり前。
「棗さんって・・・生徒会長の?苑田 棗だっけ?」
「葵知ってんの!?」
俺は声を高める。
「ったりめーだよ。この学校の生徒会長ぐらい誰だって知ってる」
葵はため息をついた。
「生徒会長だったんだ・・・棗さん。可愛いなぁ・・・」
「生徒会長っつー事も知らなかったのかよ」
葵は肩を落とす。
「そら知らねーよ。今日が初対面だったし、存在すら知らなかったからな」
「えっ?お前・・・棗の噂知らねーの?」
葵は顔色を変えた。
「・・・噂・・・?」
葵の問いに首を傾げる。
「棗には嫌な噂が流れてんだよ」
葵はいつもより低い声で言った。
「・・・嫌な噂?」
俺は身を乗り出して聞く。
「棗って・・・親に捨てられて、今は親戚の所に住んでんだけど・・・」
葵は息を潜め、静かに言う。
「その親戚に棗スゲー嫌われてるらしくて・・・棗。DⅤ受けてるらしいよ!」
葵はみぶりそぶりで話した。
「ひでー噂だな。それ、マジ?」
俺は唾を飲み、葵に問う。
「俺も本当かどうかは知らねーんだよな。でも、そういう噂が流れてんのは確かだな」
「大丈夫かな・・・棗さん」
俺は上を向き、ため息をついた。
「僕は大丈夫だけど・・・何か?」
その瞬間、後ろから声がした。
どこかで聞いた、あの口調。
「棗さん!?」
後ろを振り向くと、そこには棗が立っていた。