「入学早々恋煩いかな、陽ちゃん」
「な、何をいきなり……」
入学式の翌日、朝、SHRが始まる前、友人の森仁美がにこにこした顔で声をかけてきた。
中学から一緒で、あまり多くはないわたしの友人の中でも、親友と呼べる存在だ。
「だって、入学式のときも、さっき教室に入ったときも、元気なさそうな顔してたもん。あれは恋する乙女の顔だったよ」
恋する乙女って柄でもないけど、仁美がそう言うのならそうなのだろう。
普段はちょっと抜けている仁美も、人の心については鋭い。
それに、言われていることは、わたしも十分自覚している。
「……うん、自分でも相当重症だと思う」
文字通り寝ても覚めても、「澤先生」のことが頭から離れない。
そんなことを思っていたら、また顔が赤くなってきた……
「初恋だもんね」
「記憶する限りではね」
さすがに幼稚園以前のことは分からないけど。
「陽ちゃんの場合、モテるのに恋したことはないからね」
「モテても嬉しくないし……」
他人が聞いたら嫌味に聞こえるかもしれないけど、理由を知っている仁美は気にしていない。
仁美のそういうところも好きだ。
「まあ、いつでも相談に乗るよ、頼りないかもしれないけど」
「『かも』じゃないけどね」
「酷い言い種……」
「クスッ、冗談だよ」
キーンコーンカーンコーン……
気がつけば、もうSHRの時間だ。
「はい、みんな席についてね」
チャイムと同時に先生がドアを開けて入ってくる。
見慣れている光景のはずなのに、相手が「澤先生」だとこうも違うとは……
声を聞くだけでも切なくなる。